ヒルクライム攻略スキル

今回は多くの人が苦手意識を持っている坂道走行時のフォームや走り方についてレクチャー。ヒルクライムレースでタイムを伸ばすノウハウをわかりやすく解説します。

ヒルクライムに苦手意識がある場合、必ずその原因があるはず。苦しみの中で頑張って得られる達成感は間違いなくヒルクライムの醍醐味ですが、そのイメージが先行してしまって、ついついフィジカル(体力)の強化やスポ根精神論で語られがちです。ところが、まず初心者や坂道が苦手な人が取り組むべきは、ポジション、ペダリング、ペーシング、さらに機材のカスタマイズなどです。つまり主にスキル面です。今回はこれらを一つひとつワンポイントレクチャーしていきます。

全国各地のヒルクライムレースを走り、数多くの優勝経験を持つ
目次

右肩上がりのペーシングを身につける

潜在的に「ヒルクライムは頑張るもの」という意識が強すぎると坂道に入った途端に力を込めてしまいがち。大前提として、坂道に入ったら頑張ろうと意識しないことです。スピードがガクンと落ちて焦るかもしれませんが、坂道なので速度は落ちて当然です。

スタートからゴールまで飛ばしすぎずにペースをコントロールする術を身につけることが何より大事です。
それこそ、以降で紹介していくヒルクライムに対応するポジションやペダリングなどのスキルを身に付けたとしても、このペーシングを誤ってしまえばすべて台無しになります。

身に付けるべきは右肩あがりのペーシングです。坂道が苦手な人ほど、右肩下がりのペーシングになってしまっています。右肩あがりのペーシングを身につけるには、スタートからゴールまでの距離や時間をおよそ3分割して、序盤3分の1までは「少し余裕がありすぎる」くらいの感覚で走りましょう。その後、中盤以降にペースをジワジワと上げていく走り、いわゆるプッシュしていく走りができれば成功です。また、中盤からペースアップと言っても、スイッチが入ったかのように急にペースを上げないように注意しましょう。間違っても、序盤の元気なうちにタイムを稼いでおこうというような考えはしないように気をつけましょう。

平地と違うヒルクライムポジション

ヒルクライムが苦手な人の多くは、平地と上り坂でバイクの上でのポジションを変えずに走ってしまっています。平地のポジションのまま上り坂に入ると、傾斜の分だけ重心の位置が後ろに下がります。この状態のままでペダリングをすると、脚の筋肉だけで無理にペダルに力を加えるようになってしまいます。

そこで、坂の勾配によって変化する重心位置を中心に戻してあげる作業が必要です。具体的には、坂道に入ったら、やや上体の前傾を深めてみましょう。さらに急勾配の上り坂では、サドルに座る位置自体をやや前方へと移動します。

平地ポジションのまま上り坂に入ると傾斜の分だけ重心の位置が後ろに下がる
重心位置を坂の勾配に合わせて中心に調整することで身体全体をペダルに乗せて踏めるようなパワフルなペダリングができるようになる

クランクを高い位置から踏み込む意識

身体全体を乗せるイメージのペダリングができるようになると、坂道でのペダリングは劇的に変化します。その上で、ペダルが1回転する中で脚への意識を改善すると、さらに効率的なペダリングができるようになります。

クランクの向きを時計の針に例えると、坂道が苦手な人は3時の位置から6時あたりで踏んでいます。ところが、クランクが真下(下死点)の状態にあるものに対してさらに力を加えたところで、それは無駄な力にしかなりません。

クランクが下死点の位置で踏み込んでもクランクを回す推進力にはならない

そこで、クランクを踏む意識を0時から3時あたりに早めてあげましょう。こうすることで、推進力をもっとも得やすい3時の位置で大きなパワーを伝えられるようになります。

3時の位置で最大のパワーを発揮できるようにペダリングの意識を変えよう

このペダリングを習得するためには、踏み込む動作を、常に早い段階から意識し続けることがポイントです。そして、長い時間クランクを踏むのではなく、踏み込む時間は短くする意識も大事です。

苦手を得意に変えるダンシング習得法

シッティング以上にダンシングに苦手意識を持っている人は多いことでしょう。それも当然で、シッティングではサドルに座っているためバイクの上で身体が安定しますが、ダンシングはバイクの上で、足と手の2点支持だけでポジションを安定させる必要があるためです。

効率的に推進力を得るためには、シッティング同様に常に重心位置を調整しながら走ることがポイントになります。

腕で身体を支えつつペダルの上に体重が乗っている

ペダリング中のポイントはシッティングと同様、身体全体をペダルに乗せて、早めに踏み込む意識です。この時に気を付けるべきは、身体を支えようとするあまりハンドル側に大きく荷重してしまうことです。ハンドル荷重になってしまうと、その分ペダルへの荷重が減ってしまい効率的でありません。

身体を支えようとするあまりハンドルに加重しすぎてしまっている悪い例

また、今回は不安定になりがちなダンシングにおいて、身体の軸を意識して安定させるドリルを紹介します。ダンシング途中でクランクが真下(下死点)にきたら一度ペダリングを止めて、惰性で走りながら身体を安定させます。動きを止めることで、肩から足先まで一本の軸を意識しやすくなります。この時のポイントは、腕でバイクを外に大きく振って、頭と身体の軸は地面に対して垂直をキープすることです。これを左右それぞれ取り組みましょう。勾配が緩めの坂道、または平地のほうが取り組みやすいです。身体の軸を意識できるようになると、ダンシングが安定してきます。

バイクを大きく左右へ振るが、身体の軸は地面と垂直になるように意識する

空気抵抗を意識する

ハイスピードで駆け抜ける平地や下りと違い、ヒルクライムでは空気抵抗を意識する人は多くいません。それでもヒルクライムレースの緩斜面ともなれば、時速20kmを超えるようなシーンも出てきます。そんな時に少しでも楽をするためには、エアロフォームを意識し、空気抵抗を減らしながら走りましょう。

出すパワーは少なくても同じスピードで走れるようになるため、無理がない前傾姿勢の範囲で取り入れることをおすすめします。

初心者でもできる機材のアップグレード

重力に逆らいながら推進力を得なければならないヒルクライムでは、身体やバイクが重すぎると負荷になってしまいます。体重はすぐには落とせませんが、バイク自体はちょっとしたカスタマイズで走りが劇的に軽くできます。

初心者がまず取り組むべきは、タイヤとインナーチューブを軽くてレース仕様のモデルへアップグレードすることです。回転部分のパーツは軽くすると、一気に走りが軽くなります。ホイールのアップグレードには大きなコストがかかりますが、タイヤとインナーチューブであれば、比較的手軽に実践できると思います。

まとめ

今回紹介したことを実践するだけで、苦手意識を持っていたヒルクライムが得意に変わるきっかけをつかめるはず。

ぜひ、坂道を走るときに、今回のレクチャーを意識して、今シーズンのヒルクライムのレベルアップにつなげてください。

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この記事を書いた人

橋本謙司のアバター 橋本謙司 株式会社 BIKE & RUN 代表取締役

自転車メディアの立場として活動を続ける自転車ジャーナリスト。
国内外、様々な自転車イベントを実走取材する。また、自身も強豪アマチュアレーサーとして国内外のヒルクライムやロードレースに参加し、優勝・入賞経験がある。
一方で、全国各地のサイクルツーリズムの施策のお手伝いや広報活動に取り組む。日向涼子とともに「じてんしゃと泊まる宿」を4回刊行。
スポーツサイクル全般に関わるジャーナリストとして、専門誌や専門WEB媒体での撮影・ライティングを行いながら、ムービー制作(動画撮影・動画編集)も手掛ける。

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