もうすぐ夏! 日が長くなってきたのを生かし、いかに多くの名の知れた峠道を制覇できるのか、ハシケンが挑戦する。神奈川のヤビツ峠、埼玉の白石峠、東京の都道最高地点にある風張峠などは関東エリアにある峠の代表格。登ったことがあるサイクリストも多いのではないだろうか。そこで今回は、サイクリストなら一度は聞いたことがあるアノ峠、一度は走ってみたいアノ坂道を一挙紹介!

ヒルクライムに目覚めてかれこれ15年以上経つハシケンが、東京を中心にしたサイクリストに人気の峠道をご紹介。でも単純に有名な峠道を紹介するだけでは自転車専門メディアで”坂バカ”の名を拝命する者として物足りないではないか。そこで”坂バカ”は考えたのだった…。

週末の土日2日間で、いかに多くの名の知れた峠道を制覇できるのだろうか。そのために、峠の移動はクルマでワープして移動時間を最小限に止め、とにかく峠道だけをひたすらピンポイントで登ることにした。こうすれば、東京からアクセスしやすい関東・中部エリアの峠道を限られた時間の中で数多く攻めることができるはず。こうして「#2日でいくつの有名な峠を登れるか」の実行を決めたのだった。今回の特別企画は、前編と後編の2回に分けてレポートをお届けする。

ひたすら峠のみを攻める!!
企画立ち上がりから決行日までは1週間。以降、夜な夜なプランを練る日々が始まった。峠のリストアップとクルマでの最短移動時間を計算しながら2日間の行程を組み立てる。一般的な取材であれば時間的体力的なマージンをとって計画するところだが、今回はいかにギリギリを攻めるか!? そこがポイントになった。プランを攻めるほどにチャレンジングになり、坂バカの心を刺激する。こうして、選んだ峠とプランは次の通りだ。

まず日本一の山、富士山からは、定番の「富士スバルライン」と激坂「ふじあざみライン」をリストアップ。さらに、神奈川からは「ヤビツ峠」と「足柄峠」という超有名どころに「和田峠」もチョイス。東京からは都民の森で知られる「風張峠」。そして”峠王国”埼玉からは「白石峠」を筆頭に「山伏峠」「正丸峠」「刈場坂峠」。名の知れた峠をズラリと揃えた。
2日間の行程は分刻みで計画。サイクリストに人気のトレーニングアプリSTRAVAで各峠のおよその完走タイムを予想し、クルマでの峠と峠の移動時間を弾きだす。峠のプロフィールから攻める順番を考慮しつつ、1泊2日でプラン遂行するための効率的な移動ルートを引いた。

初日のプランは、ヤビツ峠からはじまり、足柄峠、そして富士山へ。須走口のふじあざみラインから、最後は富士スバルラインを走って、その日は富士吉田で宿泊する。
初日は朝の移動もあり峠の数は4つのみだが、超級・1級山岳が続き合計標高差は3500mを超える。実際、クルマでワープするプランでなければ、この超メジャー峠4つを1日でチャレンジすることは不可能に近い。超人ならできるかもしれないが自分には無理だ。
そして二日目は、朝イチで和田峠までワープして、風張峠から奥多摩を抜けて、埼玉方面へ。山伏峠からは正丸峠、刈場坂峠まで一気通貫して、最後は白石峠でフィニッシュ。2日目の獲得標高は2800mほどになる予定だ。
いざ、夏の峠チャレンジ! 若かりし20代の頃に雑誌企画で行ったようなフィジカル系企画を、10年以上経った今、再びやることになるとは…。
梅雨真っ只中の週末、予定通り決行。8時30分ごろにヤビツ峠の麓に到着すると、すでにサイクリストで賑わっていた。

関東在住でなくともその名を聞いたことがあるであろうヤビツ峠。サイクリストの走行マナーが問題視される中でも、近年はサイクリストや地元自治体も安全啓蒙を行う活動を見せ、東京からアクセスしやすい人気峠として不動のステータスを誇る。サイクリストだけでなく、トレイルランナーにも人気で、峠のピークには昨年レストハウスが誕生するなど注目度は高まっている。
スタート地点は都心から続く国道246号との交差点である名古木。ここから標高776mのピークまでは距離11.5km、平均勾配5.5%だ。いつもなら全力で走ってしまうところだが、今回ばかりはこれから待ち受ける峠の数々を意識して、ウォーミングアップのつもりで走り出す。それでもついつい前を走る人の背中を見るとペースが上がりがちに。調子自体は良くパワーの数値も負荷感も悪くない。頑張りすぎとわかっていても飛ばしてしまう悪いクセは、クライマーなら皆経験したことがある感覚だろうか。

タイム計測をする際、ここを一つの目安にしているサイクリストは多い
峠のピークには9時ごろ到着したが、すでに30人ほどのサイクリストがいただろうか。ランナーも含めれば、ちょっとしたイベントのような盛り上がりだ。さすが知名度抜群のヤビツ。ここにくれば、貴重な休日の朝の時間を使ってヒルクライムを楽しむ同志に出会える。約束をせずとも、同じ趣味人が集まる場所、それが峠なのだ。


頂上で少々長居をしすぎてしまったヤビツ峠。その賑わいに後ろ髪を引かれつつも、クルマに自転車を積み込んで次なる峠の足柄峠へ向けて移動を開始。普通なら峠と峠の間はペダルを漕ぐのが普通だが、クルマで移動とは新鮮な感覚。クルマはサポート役が頂上で待機。足柄峠までは助手席でラクをさせてもらい、次の峠へと備えた。
金太郎誕生の地、金時山は神奈川県と静岡県にまたがる。そこを通る足柄峠もまた、サイクリストに人気の峠。峠のピーク標高は750mだ。

STRAVAのセグメントの人気区間は県道78号線の関場交差点からスタートして峠のピークまでの距離7.2km
スタート直後から直登の坂道がはじまり、その後は起伏の変化が大きなコースが特徴だ。九十九折コーナーや勾配の変化が大きな坂が続き、ギヤチェンジを怠らずに安定したトルクで踏み続けることを意識する。
晴れれば富士山も望めるが、この日は雲が厚く叶いそうにない。太陽は隠れているが、とにかく蒸し暑く、発汗量が多い。体力が徐々に削られていることを感じながら熊に乗った金太郎の石像のあるピークへ辿り着いたのだった。じつに3年ぶりの足柄峠は、仲間たちと走った過去を思い出しながらのライドになった。



想像よりタフな峠になり、Vサインをしつつこのあとの富士山が不安に…
続いては、難関激坂として知られる富士山を静岡側からふじあざみラインへ。ところが足柄峠を下り出す段階で、ポツポツと雨粒らしきものが…。当然、灰色に染まった空には富士山は一切認識できず。足柄峠から40分ほど移動して道の駅すばしりへ。

ふじあざみラインの起点に最適
ヤビツ峠、足柄峠をクリアして、いよいよ富士山麓へ。しかし、外はかなり雨が降っている状況で、しばしクルマの中で待機することに。その後も強まる雨に、いくつかの変更プランを考えた。ふじあざみラインを回避して富士スバルラインを走るべきか。それとも強行突破すべきか。

待機している間に、当初のタイムスケジュールからも遅れ、日のあるうちに「あざみ」と「スバルライン」をクリアすることは難しくなってしまった。天気は夜に向けてさらに下り坂。さてどうする!?
初日の宿をスバルラインの麓に取っていたこともあり、ひとまずは目の前のあざみラインを強行して初日を終えて、翌朝にスバルラインを回すプランへ急遽変更。翌日に回すとは言っても、2日目も朝6時30分から動き出す計画だったので、スバルラインは早朝4時30分ごろから走り出す計算になるのだが…。
まあ、とにかくまずはあざみラインをクリアしないことには翌日はない! 車内から飛び出し自転車にまたがった。

スタート直後から勾配9%ほどの急坂が続く

とりあえずペダルを前へ進めるしか、このチャレンジの成功の道はない!
濃霧に包まれたふじあざみラインを走り出す。ヒルクライマーでなければ近寄ることさえしない激坂は、他の坂道とは次元の違う覚悟が必要だ。距離11kmで平均勾配は10%に迫る。馬返しと呼ばれる中盤以降はとくに勾配が厳しく、足がないと蛇行も必至の平均勾配15~20%が断続的に現れる。

精神的にツラい!

視界が悪い中ライトを照らしながら、ただ坂道と対峙する時間が続く。ヤビツ峠、足柄峠をクリアしてきた足は意外にもダメージを負っていて、ペダルを踏む力も弱まり、一漕ぎひと漕ぎバイクを前へ進めるのみ。さらに、終盤に差し掛かると雨は強まり、路面を滝のように水が流れる中を進む。まるで鮭の遡上のようだ。

まさに精神修行のような1時間7分。翌日に足を残すなんていう甘い考えは通用せず、なんとか辿り着いた標高2000mのふじあざみラインのゴール地点。やはりこの峠は特別に過酷なのだ。試される坂である。ゴール直後、ふじあざみラインヒルクライム恒例となっている山小屋菊屋さんのおばあちゃんが振る舞ってくれる椎茸茶が冷えた体に沁みわたる。朝8時30分からヤビツ峠を登り出してから、あざみラインを登きったときには15時を回っていた。スバルラインは翌日に残してしまったが、ひとまず初日を終えた達成感に浸るのだった。

この日3つ目の坂道をクリア!
まさかの悪天候でプラン変更を余儀なくされた初日だったが、ヤビツ峠(神奈川)、足柄峠(神奈川)、ふじあざみライン(静岡)という知名度抜群の峠を1日で登るという経験はなかなかできないこと。それだけでも、今回の夏の峠チャレンジ企画は価値があるが、チャレンジはまだまだ2日目へと続く。しかも、翌朝4時30分、富士スバルライン(山梨)からスタートするという強烈なプラン。果たして…!?

初日に登った峠(坂道)
<ヤビツ峠>
距離11.5km
平均勾配5.5%
標高差643m
<足柄峠>
距離6.5km
平均勾配7.7%
標高差511m
<ふじあざみライン>
距離11.1km
平均勾配10.1%
標高差1118m